4.4 男と女が無理する理由
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サラ・ヒル(Sarah E. Hill)
人類学の学士→バスのもとで学び、心理学博士号
ヒトの社会的行動と社会的認知プロセスを研究対象としている
進化心理学の理論を応用し、その視点からヒトの社会的行動、特に社会心理学と関連する適応メカニズムや、人間関係、社会的意思決定の一部を説明することを試みている
現在では配偶者選択と有限資源(配偶者、富、社会的地位など)にまつわる社会競争についての研究に注力
進化心理学の視点から、情緒、決定のヒューリスティクスなど一連の社会的行動と社会的認知プロセスについて研究を重ねてきた
これらの研究は、社会的判断、意思決定、リスク認知などと関連し、配偶者選択行動や配偶者選択における戦略、人間関係における協力と衝突、社会的競争を調整するような動機システム(不満や嫉妬、他人の不幸を喜ぶなど)、ヒトの配偶者選択行動の進化、自尊心の進化的機能などといった内容を含んでいる
Hill & Reeve (2004)は、オークションゲームを用いて人の配偶者選択行動を研究し、数学モデルを通して女性の配偶者価値と男性が配偶者との関係を獲得・維持するために必要な資源量との関連を探索した
Hill & Buss (2006)では、地位の選好と嫉妬の二つの特殊な認知適応的構造の特徴に対して、新しいデータを提供した上で、それらの経済学者やマネジメント関係者に対する意義について議論した
本文
進化心理学の主な主張の一つは、心は、直面している適応上の問題に特有の(生理的、行動などの)アウトプットを生み出す多くの領域特異的なメカニズムからできているということ
この洞察は、行動と認知は、特定の適応上の課題や機会に対応する社会環境の変化に基づいて、予測可能な方法で変化するはずだということを示唆している
リスクを伴う意思決定の心理学
ヒトの意思決定は単一の「効用最大化アルゴリズム」と信じられてきた
進化理論家は、特定の適応に関する問題を解決するための、淘汰によって形作られた莫大な数の意思決定ルールと認知ヒューリスティクスが働いていることを示す証拠を蓄積し始めていた(例えば、Brandstatter, Gigerenzer, & Hertwig, 2006; Gigerenzer & Selten, 2001)
この見方では、進化の時間を通して安定して適応度を増加させてきた結果を好むように、ヒトの意思決定は適応的に調整されているとされる(Cosmides & Tooby, 1996; Farthing, 2005; Wang, 1996a, Wang, 1996b; Wang, Kruger, & Wilke, 2009)
特にリスク行動に関して、この視点から、ある行動について安全な選択肢とリスクを伴う選択肢のいずれを好むかは、それぞれに伴う適応土壌の利益の見込みに影響を与えるような文脈上の変数が影響するはずであると予測できる
私の研究では、この一般的な洞察をもとに、個人がどんな文脈で行動戦略を安全志向からリスク志向に切り替えるかを検討してきた
ある研究は、社会的な競争相手と比較した時の自分の優劣の評価によって、安全な結果とリスキーな結果への選好がどう変化するかを検討した(Hill & Buss, 2010)
多くの領域で、ある人が個人的な結果から得る適応度上の利益は、他者の結果に左右される(例えば、Frank, 1999)
したがって、相対的地位への関心は金銭的リスクをとる意欲を高めると、私たちは予測した
ここでは、分散の大きな結果には社会的競争相手を上回る可能性があるのに対し、分散の小さな結果にはその可能性がないものとしている
結果は予測を支持し、従来は確実性効果が理論上予測され、実際に繰り返し裏付けられてきた領域においても、相対的地位への関心によって選好が反転することが示された
特に、私たちは、金銭の獲得額で競争相手を上回る可能性がある場合に、人々がますますリスクの高い結果を好むようになることを発見した
競争相手を上回る金銭的利益に対する選好は、通常観測される安全志向が競争相手を下回る結果につながる場合、それを打ち消す効果を持った。
加えて、私たちは、損失が生じる可能性のある二つの選択肢のどちらがより好ましいかを判断する際には、他者の損失に関する社会的比較の情報を無視することもわかった
つまり、確実だが小さな損失よりも不確実だが大きな損失を選考する
これは、損失が適応度に及ぼす負の効果の非対称性から予測されるパターンと一致する結果
リスクテイキングを促進する文脈についての別の研究では、異性間の求愛と同性間の競争に関する目標を顕在化すると、女性が自身を魅力的に見せるための健康リスクを冒すようになるかを調べてきた
私たちは、配偶上の目標を強調すると、若い女性によく見られる二つの行動という形で、魅力度増大のためにリスクを冒す傾向が高まることを示した
日焼けサロン通いと、危険なダイエット薬の服用
私たちは、配偶上の目標が活性化されている時、女性が二つの行動に伴うリスクに鈍感になるためにこのような結果が生じることを発見した
これらの発見から、積極的に配偶上の目標を追っている時、女性たちは、そうした行動がもたらす悪影響に苦しむ可能性が低いと実際に信じていることが示唆される
この戦略的なリスクの抑圧は、適応度上の大きな見返りを得られる可能性がある場合はリスク希求傾向を強めるように、淘汰を通じて形成されたメカニズムであると、私たちは主張した
認知と知覚の処理における感情の状態の役割
私たちは現在、嫉妬の認知処理への影響を調べている
嫉妬は苦痛を伴って経験される感情であり、個人の関心領域において、自分よりも優位にある他者との社会的比較に対する反応として生じる
嫉妬は一般的に、複数の情動(劣等感、不公平感、怒りなど)が混在する状態として経験され、それらはいずれも意図的に他者から隠される傾向にある(総説として、Smith & Kim, 2007)
進化の視点から見た感情の機能は、一般に、環境内で起きた警戒が必要ななにかについて注意を促し、起こったことに適応的に反応するために必要な心理的・生理的プロセスを活性化させること(Buss, 1989b)
これを嫉妬に当てはめると、歴史的に生存と繁殖の成功に関連してきた領域で優位にある他者に対しての、主観的には不愉快でも、機能的ではある反応だろうと推察できる(DelPriore, Hill, & Buss, under review; Hill & Buss, 2006, Hill & Buss, 2008)
適応度に関連した目標を達成する見込みは、自身が持っている質や才能だけでなく、関連した社会的競争相手の質や才能にも依存している
心理的苦痛の原因(すなわち他者がリードしている状況への対処に集中しやすくなり、それによって同じ結果を成し遂げるために必要なステップを見定めたり(自身の地位改善を目的とした良性の嫉妬)、圧倒的な差から来る効果を軽減するために、他者の地位を傷つけたりする(悪性の嫉妬)だろう(van de Ven & Pieters, 2009)
私たちがこれまでに行ってきた研究の結果はすべて、嫉妬の重要な役割は、適応度に関係する領域で、他者が保持している優位性に個人の注意を向けさせることであるという仮説に一致している
具体的には、嫉妬を引き起こしやすいある種のアドバンテージは、ヒトが進化の歴史において直面してきた課題の主要カテゴリーに一致することや、嫉妬を抱く領域には進化理論から予測されるとおりの性差が見られることが示された(Hill, DelPriore, & Vaughan, 2011)